心房細動 と LDL-コレステロール
 平成24年7月18日 東陵高校衛生委員会 
学校医 栗原医院 栗原 眞純
 歳を重ねるに従って心房細動という厄介な病気が増えてきます。65歳以上では、15人に1人が発症すると言われています。

 通常、心拍(脈拍)は1分間に60〜80回程度、心房から生じた電気信号が心室に伝わり、心室が強く収縮することによって起こりますが、何らかの異常によって心房が1分間に350〜600回もの電気信号を出すと、それがうまく心室に伝わらず、その結果、頻脈性のひどい不整脈が起こり、血液がスムーズに流れなくなります。これを心房細動と言います。
 
 症状は、なんとなく胸が苦しい、いやな動悸がする、ひどい場合は立っていることさえ辛くなります。 診断は心電図で行います。
 下の図が正常心電図と心房細動の心電図の比較です。P波は心房の、R波は心室の動きを表しています。正常ではP波もR波もきれいに規則正しく見られますが、心房細動ではP波が消失するというよりも非常に増えるので「心房細動」というのです。正常心電図ではこのように規則正しくP波とR波が出ています。
 心房細動を止める薬もありますが、薬が効かない場合は、カテーテルアブレーションと言って、大腿や首などの血管から心臓までカテーテルを入れて高周波電流を流すことにより、心房細動を起こす元になる電気を発している心臓の組織を熱凝固させて余計な電気を起こさないようにする治療が行われています。通常その部位は肺静脈と左心房が繋がっている部分です。
 心房細動が起こると血液が心房から心室へうまく流れないので心房内で血液がよどみ、血のかたまりが出来はじめます。これが血栓です。

 このようにして出来た血栓は大動脈を通って全身に運ばれます。これらの血栓が脳の血管をつまらせれば脳梗塞であり、心筋の冠動脈をつまらせれば心筋梗塞となります。梗塞は脳、心臓以外のどこにでも起こり得ます。

 たとえ心房内で血液がよどんでもその血が固まらなければ心臓の不快感が残るだけで血栓は生じないので、脳梗塞や心筋梗塞も起こりません。
    
 しかし心房細動が薬やカテーテルアブレーションで除去されない場合は、血液のよどみによって、左心房内で血栓が形成され、それが基で脳梗塞などを起こしやすいのです。それを予防するために、血栓を起こしにくくする薬、ワルファリンを服用するのが普通です。上の図は超音波で見た心臓の画像ですが、左心房内に大きな血栓が出来ているのがよく分かります。


 血栓を作りやすくするもの、それがLDLコレステロールです。 ここからコレステロールの話になります。

 コレステロールは大きく分けて高比重の蛋白と結合したHDLコレステロール(善玉)と低比重の蛋白と結合したLDLコレステロール(悪玉)とに分けられます。コレステロール自体は身体の細胞を作る材料であり、身体にとって必須の物質です。

 コレステロールは肝臓で作られ、貯えられます。これを身体中に運ぶのがLDLコレステロール(悪玉)であり、余ったコレステロールを肝臓へ戻すのがHDLコレステロール(善玉)というわけです。下図

 血液中にコレステロールが多すぎると血管壁にしみこんで来ます。すると血管壁の組織が変質、肥厚しどろどろの粥状物(アテロ−ム・プラーク)となり、血管壁は硬化肥大し、血管内腔は狭くなり、ついにはプラーク化した血管壁を傷つけるので、これを修復しようとして血栓が出来、血管内腔はますます狭くなります。血栓は血液と一緒に身体中に運ばれて行き、前述した左心房で出来た血栓と同様に身体各所に梗塞(組織が死んだ部分)を生じます。

 最近の健康診断では総コレステロール(LDLコレステロールとHDLコレステロールなどを合わせた物)の値よりもLDLコレステロールの値を重要視します。大体120mg/dl以下であれば良いとされています。


 コレステロールの大部分は肝臓で夜、眠っている間に作られるのでコレステロールを減らす薬は夕食後に服用します。しかし、コレステロールの30%位は食物から摂取されます。コレステロールの多い食物(右)と少ない食物(左)を表にしたのが下の図です。
 皆さん、どんなに注意していても、動脈硬化は人によって遅い早いはありますが、少しずつ確実にやってきます。そして血管は徐々に硬く狭くなり血栓の有無に関係なく細い血管から順に詰まって行きます。それが老化現象そのものなのです。少しでも長く若く居るためには、適度の運動とバランスのとれた食事を心がけて下さい。     終わり

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